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不安が入り混じった、でもしっかりとした声で静かに問う。もうなんとなく、気づいているのだろう。言葉にすべきではないのかもしれない。でも、そうか。気づかせた方が未来の為…?
「叶わないよ。もうノートも書いてないし持ってもいない」
自分でも不思議なくらい、冷静に言えた。
「…なんで?」
昔の私は少しムッとした。
「まだ21歳でしょ、いくつになっても目指せばいいじゃん。なんで捨てるの?」
「捨てられたのよ」
吐き捨てるように淡々と事実を言う。こうなったらもうすべて、言ってしまえ。
「中学生になって文芸部に入った。毎日楽しかった。物凄く上手な同級生とか先輩とかいて、励まされてどんどん、書いていこうと思った。でも家に帰ったら、捨てられてたの」
「誰に」
「お母さんに。その時喧嘩してたんだよ。理由はもう忘れたけど。『勉強もしないでこんなの書いて』って」
「……っ」
「ゴミ箱を見たけど、ノートは全部ビリビリだった。他のノートも、別の場所に置いてあったのにわざわざ見つけて、捨ててあったよ」
「ひどい…」
声に怒気が籠っている。左手に力が入ってきている。服が伸びちゃうな。
「でもさ、確かにテストの点は悪かったんだよ。それに部活内で私は、良いもの書けてるとは思えなかったからさ。……しょうがなかったのかもしれない」
「なにが!!?」
あははと小さく苦笑いをする私に、昔の私は怒りを抑えきれず叫んだ。
「なんで笑うの!?何もおかしいことはないじゃん!!大切なものを捨てられて、なんで怒らないの!?」
「怒って何か意味があると思う?あのお母さんだよ。言っても無駄だよ」
「だからって…なんで。なんでそうなっちゃうの」
「捨てられた時はショックだったよ。ただただ、怒りを通り越して何も感じなかった。悲しかったんだと思う。それで…そうか、見たくもなくなってきたのかもしれない」
「でも、また書けばいいじゃん!お母さんにとやかく言われないようにして、こっそり書けばいいんじゃないの!?」
「…この感覚は分かって欲しくないな。もうホント、ポッカリと穴があいたんだよ。それに、さ。もし万が一が自分にあるとは思えないなって。夢が叶うのはほんの一部の人なんだろうなって」
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