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『メイド紹介所・クレマンティーヌ』
“貴方のご希望ぴったりのメイド見つかります”
街角の古びた建物の見過ごすほどの小さな錆びた看板。
ドアを押し開け、白髪混じりの1人の紳士が足を踏み入れる。カウンターがあるだけの狭い店に、年齢不詳の女主が挨拶もせずにジロリと目を向ける。
「メイドを紹介してほしいのだがね」
「ご希望は?」
手元の分厚い書類を開き、愛想のかけらもなく女主クレマンティーヌが聞く。
「ジェネラルメイドを。手癖が悪いのは困る。前の子は、それで娘と揉めてね」
眉を下げて困ったように紳士は話す。ジェネラルとはすべての家事を1人でこなすメイドのことだ。概ね大貴族では役職ごとに人を雇う。中流貴族か吝嗇家か。
「家柄、教養は?」
「ガヴァネス(家庭教師)は必要ない、ただ…“私の話し相手”をお願いしたい」
クレマンティーヌは紳士の足先から上へと目を向け見定める。
「誰の紹介だい?」
「リシャール卿。ベルナー・ド・リシャールだ」
クレマンティーヌは頷いて質問する。
「F?、H?」
「H」
「他には?」
「若い子がいい。できれば背も私より低い方がいいね」
「だったらこの子だね。アンナ、星3つ、金髪碧眼、少し器量に欠けるが悪くない」
「顔は?」
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