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気丈な妻も病魔の痛みや投薬の苦しみに耐えかねて我を失う日々がある。その瞬間の度に妻が一時的に殺されているような気がして夫は胸をかきむしられるような気持ちになった。
「どうしてよ!」
と妻は泣きながら叫んだ。
「私がいったい何をしたっていうの!これはなんの報いなの!?なんのための罰なの!?」
火がついた赤ん坊のように泣きじゃくって彼女は運命を嘆いた。泣いたところで痛みや苦しみが治まることもなく、惨めさが上乗せされるだけでもっとひどい気分になった。それでも彼女は夫を道連れにしようと癇癪をぶつけた。
「殺してよ!もう殺して!こんな痛みのまま生きていたくなんかない、もう解放してほしいの、死なせてよ!」
夫は妻を慰めることができなかった。騒ぎを聞きつけた看護士がやってきて、慣れた様子で落ち着き払って鎮痛剤を打った。炎が水をかけられたようにおとなしくなり、しかし目尻からちぎれるようにむしり取られた涙の痕や真っ赤に興奮した肌の色がむごたらしく、それならば燃え尽きるまで灯してやった方がよかったのではないかという考えが彼を苛んだ。看護士は尋問を受けた犯罪者のようにげっそりした夫を見て、
「あなたも辛いわね」
と彼を思いやってくれた。百戦錬磨の彼女たちにはこういったことは日常で、こんな一幕も見慣れているだろうにそのような心遣いをしてくれることが彼には有り難かった。けれど彼はただ、
「すみません」
と呻くように言った。その言葉は誰にも届かなかった。
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