唯己論

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 一瞬、ブレットだけ時が静止した。理解するのに数秒を要した。そして、彼の高らかな笑い声とともに、時がまた動き始めた。 「面白い冗談だ。俺とアビエルは30以上も離れている、もしアビエルがここに来てたとしても、あんたや俺のようなおっさんではないよ。──あぁそうだ。あんた、飲み物がまだじゃないか。なぁ、バーテン。早くこいつにピル・オーティーを注いでやれよ」  バーテンダーはキョトンとした顔でブレットを眺めた。 「ピル・オーティー?新しい注文ですかい?」 「何言ってんだ。俺のじゃないよ、さっきこいつが......」  ブレットが横を見ると、“彼の姿”は消え、ドアベルが物憂げに鳴り響いていた。 「まさかそんな、さっきまでやつはここに...」  ブレットは目を見開いたまま、バーテンを振り向くと、バーテンの姿も跡形もなく消えていた。辺りをよく見渡すと、バーなんてものも、存在していなかった事にも気づいた。無の空間に、一人ポツンと立っていたのだ。  まさか、と思い視線を落とすと、自分の体もやはり無くなっていたし、それを確認する為の目も、存在していなかった事を知った。  自分は、アビエル・マッケンジーが産み出した幻影だったのだ。と想うものも何も無かった。
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