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テスタメント
僕は家に帰ってから、受け取った封筒を開けた。
中には几帳面に四つ折にされた一枚の手紙と、一枚の地図が入っていた。
「ナダカンで待っている」
書いてあった言葉はそれだけだった。理由も何もない。
ただ、それが彼の遺言であることだけが確かだった。
そして同封されていた地図は、どこかの建物の内部のものだった。
地図の一箇所には、赤いペンで丸が書かれていた。
あの二人の刑事はこの遺書を知っているんだろうか、と僕はふと思った。
……いや、たぶん知らないだろう。
もし知っていたとしたら、あんなに素直に聞き込みを終えないはずだ。
もっとねちっこく、もっと確実に、もっと徹底的に、僕を調べつくしたはずだ。
そうならなかったのは、ひとえに彼のお母さんのおかげだった。
きっとお母さんは、早い段階でサーフズ・アップのジャケットの中に僕宛の遺言状があったことを知っていただろう。
でもそれを警察に話したら、僕が厄介なことになると分かっていたのだ。
そしてそれは、自分の息子の自殺を認めることでもあった。
それはかなり辛いことだったはずだ。
息子は誰かに殺されたかもしれないと聞かされたら、たとえ可能性が低いにしても、警察に協力的になるはずなのだ。
でもあのお母さんは……あの家族は、そうしなかった。
きっとどこまでも彼のことを信じていたのだろう。
そしてその信頼を、唯一の友人であった僕が受け取ってしまったのだ。
となると、僕がやるべきことは一つしかなかった。
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