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僕はいくつかサイトを巡って、ナダカンへの行き方や廃墟探索の際の持ち物、服装などを細かにチェックした。
廃墟に行くのは、グアムやハワイに行くのとは訳が違う。
それに現地までの交通費も含めると、バイトで貯めていた貯金は目に見えて減っていった。
まあ、仕方がない。
死んでしまった彼と違って、僕はまた貯金することができるのだ。
僕はカレンダーを確認してから、金曜日までの三日間のバイトを休むことにした。
適当に理由をつけて休みの連絡を入れると、さすがに少したしなめられたものの、問題なく休みを取ることができた。
今まで遅刻も欠勤もしてこなかったし、スタッフが少ないときには優先的にヘルプで入っていたから、上司の評価も高かったのが活きた。
とはいえ、さすがに土曜日の夕方には帰ってこなくてはならない。
新幹線に乗るのは中学校の修学旅行以来だった。
荷物を座席の上のスペースに上げたすぐ後で、隣の席にスーツを着た若いOLが座った。
女性は薄いサンドイッチを一口一口大事そうに食べてから、背筋をぴんと伸ばして眠り始めた。
なぜそんな姿勢でリラックスして眠れるのか、僕にはさっぱりわからなかった。
現地近くの駅に着いたのは夕方だった。
ナダカンには二日目の朝早くに向かう予定だったので、翌日に備えて僕はホテルの部屋でのんびりすることにした。
荷物の詰まったリュックをソファーの上に放り投げて、ベッドの上に寝転んだ。
ホテルは全体的に古く、少し黴臭かったが、贅沢は言えない。
僕は天井を見上げながら、再び彼のことを考えた。
彼が死んだということに対して、僕は未だに特別な感情を抱いていなかった。
ただ納得していただけだ。
彼には“生”よりも“死”の方がしっくり来るような感じがしていた。
一番の問題は、なぜ彼が僕を廃墟のホテルにまで連れ出したのか……ということだった。
何か物を渡すにしても、遺書とは別に用意しておけばいい。
それが他人に知られたくないようなものだったとしても、わざわざリスクの高い廃墟(それも近場とはいえない場所)なんかに放り込んでおく必要性なんてどこにもない。
それに、もし僕が面倒がって放り投げていたら、どうするつもりだったのだろう?
ベッドの上でも彼に対する疑問は尽きなかったが、死人でない僕にその答えは分からなかった。
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