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ナダカンへ向かうための登山口は墓地の奥にあった。
それは長い年月をかけて生い茂った木々の影に隠れていたので、注意しなければ見落としていただろう。
登山口は錆びた鉄の門で閉じられていたが、文字の掠れた看板によると特に立ち入り禁止というわけでもないようだ。
僕は門を壊さないようにそっと開けて、登山口に入った。
門は開ける時と閉じる時に、飢えた子犬のようなか細い音を立てた。
登山口には事前に調べたとおり、有志によって道案内のカラーテープが木々に取り付けられていた。
その時の僕には、そうした行動があまり好ましくないといった考えは浮かび上がってこなかった。
目的があってそれに向かって突き進む人間にとって、社会のルールやモラルといったものは選挙ポスターに掲げられた叶いもしない公約程度には意味のないものに過ぎないのだ。
僕は青いカラーテープを辿りながら、自分の立ち位置も見失わないように地面に足で印を付けていった。
つま先で地面を十字に掘れば、それが人為的なものであるとわかるはずだ。
仮に遭難したとしても、助かる公算は高くなる。雨さえ降らなければ。
一時間ほどそんな風に山を登った。
それは僕が小学校で経験した登山と違い、とてもハードなものだった。
道が整備されていないだけで、歩きやすさがこれだけ違うのだ。
カラーテープがなければ、まったく進むこともできなかっただろう。
そろそろ建物が見えてきてもいい頃だけど……と思った瞬間だった。
ナダカンは突然、その姿を現した。
それは敬虔な信者の前に舞い降りた預言のようでもあった。
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