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朽ちゆくホテル
もともとそういう地形だったのか、それともホテル建造の際に山を切り崩したのかはわからないが、ナダカンの周辺だけがまったくの平地になっていた。
もちろん歳月によって木々は荒れ放題になっていたが、そこが一度人の手が入った場所であるということは一目でわかった。
遠目には目立たなかったが、近づいて見てみると、ホテルのあらゆる場所が朽ち果てていることに気がついた。
壁の塗装は剥がれ、ガラスの割れた窓からは植物の蔦がホテルから逃げ出すように外に伸びていた。
風雨によって削られて丸くなってしまった石畳の階段を一歩ずつ上がっていき、入り口らしきドアの隙間から中に入った(ドアのレールには砂利が詰まって動かなかった)。
ホテルの中は湿っぽく、ひんやりとしていた。
陽の光がほとんど入らないこともあって、まだ午前中とは思えないほど暗かった。
僕はしばらくその場に立って、暗闇に目を慣れさせてから奥に進んだ。
床には瓦礫や得体の知れないゴミが転がっていたので、転ばないように細心の注意を払った。
入り口の先には長い廊下がずっと続いていた。
部屋のある場所から、廊下に陽の光が少しだけ漏れていたので、それを目印にしながら進んだ。
僕は遺書に同封されていた地図をその場で確認してみたが、思ったよりも内部の荒廃がひどく、自分がどの位置にいるのかほとんどアテにならなかった。
だから僕は時折後ろを振り返って自分の居場所を確かめながら、部屋を一つずつ確認していくしかなかった。
地図につけられた赤い丸、そこへ向かうために。
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