彼の真実、僕の現実

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 部屋を出る際に、隅の方にアナログレコードが立てかけてあることに気付いた。  こんなにこれ見よがしに置いてあるのに……部屋に入るとき、僕はまったく気がつかなかったのだ。  そのレコードのジャケットには、黄昏の夜空を駆ける一筋の流星が描かれていた。  ウェザー・リポートの『ミステリアス・トラヴェラー』。  それは明らかに、彼が置いていったものだった。  彼がそのバンドが好きだったことを、僕は初めて知った。  彼と僕の間には、もっとたくさんの話題があったのだ。  しかし、彼と僕の距離は……これ以上は縮まらない。  僕はようやく、彼を永遠に失ってしまったことを寂しく、辛く、悲しく思った。  息苦しいくらいに泣きながら、ジャケットと同じ黄昏時のホテルを後にして下山した。
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