エピローグ

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 彼が死んでから数年が経ち、僕は社会人になった。  冴える仕事をしているわけではなかったけれど、納得のいかないことはとことん突き詰める性格になった。  正しさも、悪も分からないから、せめて自分が納得できることをしよう。  そう思えるようになったのだ。  自殺が正しいことだなんて、僕は思っていない。  でもそれが本人にとって真実の出来事なら……いったい、誰に止める権利があるのだろう?  その後のナダカンは建物としての価値が認められ、保存活動が進んでいる。  もうかつてのように軽々しく侵入することなんて出来ない。  ホテルの中も隅々まで整備され、幾分の黴臭さはあるものの、荒廃した雰囲気は消え去ってしまっていた。  これでよかったんだ、と僕は思った。  しかしそんなナダカンの光景を写真で見ていると、僕が彼と交流を果たした部屋がどこにも見当たらないことに気がついた。  あまりにも老朽化が進み見学も出来ないのか、それともただ単に写していないだけなのか……。  理由は分からないが、少しだけ嬉しくなった。  あの部屋は……彼が、僕だけのために用意したものだったからだ。  少なくとも、あの日、あの時間だけは。  そして僕は、ミステリアス・トラヴェラーのレコードに針を落とした。  黄昏の夜空に尾を引く流星。  それはまさに、彼そのものだった。
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