ナーバス

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ナーバス

 実際のところ、僕と彼は友人ではあったけれど、頻繁に連絡を取り合うような仲ではなかった。  しかし彼にとっては僕が唯一の友人だったようだ。  確かに僕は、彼が他の友人と並んで歩いている姿を見たことがなかった。  そしてどこからかその情報をかぎつけた刑事が、僕の下にやって来たというわけだった。 「亡くなった彼と、知り合いだったんだね?」  僕はバスタブに頭を突っ込んだまま死んでいる彼の写真を、何枚も見せられた。  色んな角度から、色んな顔の彼を撮っていた。  写真に写っている彼は全て、死んでいた。  やたら背が高く髪の短い痩せた刑事と、妙に小さく髪の長い太った刑事の二人は、僕が死体の写真を見ている間、ずっと僕の顔を眺めていた。  どこまでも対照的な二人の姿は、まるで絵本の登場人物のようだった。  しかし二人は生物としての疲れを身にまとっていて、彼らの身体に宿命的にこびりついたタバコの臭いと共に、確かに現実のものであることを僕に伝えていた。 「はい、知り合いでしたよ」  その時、僕は夜勤のバイトを終えたばかりで、ひどく疲れていた。  しかもその日は、普段なら絶対に起こらないイレギュラーな事故も起きていて、とてもハードな夜だった。  そして明け方に家に帰るなり風呂にも入らず、ベッドに横たわって犬のように眠っていたのだ。  その後二時間も経たずに、この象徴的な二人の刑事がドアをノックして、大して親しくも無い彼の死を僕に報せに来た。  彼の死を悼むには、僕はあまりにも疲れすぎていた。 「彼、大学でどんな様子だった? 他に知り合いとか、居なかった?」  そして小さい方の刑事の喋り方やちょっとした仕草は、僕をますます苛立たせた。  彼らが僕に対して疑念を持ち、責任感を植えつけようとしているのが透けて見えるようだった。  彼が死んだのは、君のせいだ。君がもっと、彼を気にかけていれば。  僕はその雰囲気を感じながらも、人が死んでいるという事実を考慮して、刑事を追い返したくなる気持ちを我慢して会話を続けた。
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