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彼の死がもたらしたのは、深い悲しみでも、大きな喪失感でもなかった。
実際に、僕は彼の死に涙を流すことが出来ないでいた。
あまりにも唐突で、予想外の場所から知らされたものだから、彼の死をうまく現実として認識することが出来なかったのだ。
ただ、「何かをしなければならないのではないか」という漠然とした焦燥感が、時折僕の胸を突いた。
この焦りは、いったいどこから湧き出てくるのだろう?
しばらくの間、僕は平穏を装って日常を過ごしながら、自分の感情の源流を捜し求めていた。
僕が大学の事務室で彼の実家の住所を聞いたのは、それが一つの要因だった。
死んだ彼を放っておいたままでは、僕はどこにも向かうことが出来ない……そう思ったのだ。
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