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実感の無い死
彼の実家は、埼玉にあった。
所沢から少し離れた、大きな公園のある駅。
高い建物がほとんど無く、開けた土地がどこまでも続いていた。
沈む夕陽が、空一面を複雑なオレンジ色に染め上げていた。
小さな子どもの頃に、見たことのあるような風景だった。
駅から二十分歩いたところに、彼の実家はあった。
門があり、広い庭に池まである立派な家だったが、周りには雑草の生えた空き地しか無かった。
国道からも離れているから車の通りも少なく、電柱だけが規則正しく並んでいる。
そんな茫漠とした景色の中に、二階建ての一軒家がぽつんと建っているのだ。
家に着いた頃には、夜の闇が陽を塗り潰すところまで来ていた。
大きな空の下、知らない場所で一人ポツンと立っていると、なんだか自分が世界の果てに来てしまったような気分になった。
門の表札には確かに彼の苗字が書かれていた。
インターホンを鳴らすと、たっぷり時間をかけてから「どちら様ですか」という女性の声がした。
僕は自分の名前と、大学の友人であることを伝えた。
すると女性は何かを察したように「よくいらして……玄関で待っていてください」と言ってインターホンから離れた。
僕はまだここに来た用件を告げていなかったが、まあわざわざ聞くまでもないのだろう。
あのシンボル的な刑事二人が、自分たちの捜査状況を遺族に伝えていないはずがない。
家族だって、彼の大学の友人が僕だけしかいないことは知っているのだ。
僕は言われたとおりに、門を抜けて玄関の前に立っていた。
池には鯉でもいるのか、時折水面がぱしゃっと撥ねる音がした。
水面に移った消えかけの夕闇は、その度に複雑な波紋によってずたずたに引き裂かれていた。
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