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オメガだからってアルファと結婚しないといけないって、ぼくからすれば全くもって意味不明な理論。でもぼくが結婚しないって少しでも匂わそうものなら、「将来のこと、ちゃんと考えてる?」と心配そうに聞いてくれる。ぼくがアルファと結婚しなかったせいで、将来スラム街でボロ布にくるまって生活することにならないように、身を案じてくれているわけだ。
いやー不思議でしょうがないね。どうしてオメガでも一人で生きていけるって思わないんだろう!
「かあさんのばか!」
ぼくは大声を上げながら、家から飛び出した。
背中に抱えるのはどでかいリュックサック。三日分の食料と、着替えとテントが入ってる。
「AA! 待って!」
背中から聞こえてくるかあさんの声を置き去りにして、全力で町を走り抜ける。目指すのはこの町の郊外に設けられた列車の駅だ。そこに停まる列車に飛び乗れば、三日ほどで都に向かうことができる。
大声を聞いたご近所が何事とばかりに窓を開けたが、ぼくの姿を見つけるやいなや「はやく家に戻れ! オメガが夜に出歩くもんじゃない!」と大声で叱られた。この町の住人はぼくのことを年頃の女の子と同等、いやそれ以上に大切に扱ってくれた。将来、どこかのアルファ様と結婚するかもしれないってみんな期待してるから。
しかし今ばかりはその親切心は、ぼくの怒りをさらに燃え上がらせるだけだった。
「家出してやるーー!」
夕食を食べている間も、かあさんにずっと説得され続けたぼくは、とうとう嫌気が差して家出を決心した。かあさんは今までずっとぼくに優しかったけど、まさかこんなに結婚についてこだわる人だとは思ってなかった。アルファと結婚したことでかあさんは幸せになれたかもしれないけど、その幸せの形はぼくが欲しいものじゃない。
「わがままいうのは止めるんだ!」
「うるせー!」
走って逃げるぼくを見かけた魚屋のおじさんが、大声で言った。アルファとの結婚を断ったことがもう町中に知れ渡っているらしい。田舎っていうのはあっという間に噂が広がるものだ。
「都会に行きたいなら、アルファと結婚したら行けるじゃないか!」
地平線まで長々と続く線路に沿って全速力で走るぼくを追いかけなら、おじさんは更に言う。誰に頼まれたのか、ぼくを捕まえようとしてるらしい。
「自分の力で出ていかないと意味ないんだよ!」
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