第1章

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「この町が好きですか?」という質問を地元の人間に投げかければ、大体の人が「大好きです」と答えてくれるに違いない。しかしながら、その質問に「大嫌いです」と答える人間も少なからず存在する。――例えばぼく。 物心がついたころからこの町に住んでいたが残念ながら郷土愛というものは、ぼくの中では育たなかった。ハイスクールを卒業したらとっと出ていってやろうと画策する程度には、この町に嫌気が差していた。 ぼくが田舎町を嫌っている理由を三つ、お教えしようと思う。 一つ目、町にスーパーが一軒しかないこと。 服屋と本屋、CDショップと食品スーパーをぎゅっと詰め込んだような古ぼけたスーパーが一軒だけ町角に存在した。 とにかく品揃えが悪くて、テレビCMでみた新商品を買いに行ってもまず売ってない。一体何ヶ月ダンボールの中に眠ってたんだって聞きたくなるような埃をかぶった商品がぎっしり陳列されて、耳の遠くなったおばあちゃんがノロノロレジに商品を通しているような有様のそれだ。流行りものを少しでも早く手に入れたい思春期の子どもたちの多くが、大体この問題をきっかけにして自分が田舎町に生まれたことを憂い嘆く。 ゲームや雑誌を発売日当日に手に入れようなんて期待は、この町に住んでいる限りしないほうがいい。ぼくは世界的なベストセラーになった小説の最終巻が三ヶ月手に入らず、読む終わる前にテレビでラストシーンをバラされたことで、この田舎町を死ぬほど恨んだ。 二つ目、町に学校がないこと。 政府が国民には義務教育を施さなくてはいけないと取り決めてから、果たして何年経っただろう。それなのにこの町は人口が少なさ過ぎて、学校が作れないらしい。 この町に住む子どもたちは親が学校まで車で送るか、朝っぱらに走るハイスクールバスに飛び乗るしかない。自転車やスケートボードでかっこよく通学するなんて夢のまた夢だ。田舎は都会と違って学校までフルマラソンくらいの距離がある。 車でも遠いだろって? いいや、実はそうでもない。町の外は農地以外なにもない。牛や馬の数が人間の数よりも多い世界だ。そんなただ広いだけの牧草地をかっ飛ばして走るから、車ならあっという間に到着することができる。
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