第1章

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当然、通う学校にいる大半の生徒からすれば、ぼくは部外者だった。入学当日、「お前はどこにすんでるんだ」とポリスのように高圧的な上級生に質問され、ぼくは怯えながら自分の田舎町の名前を言った。すると彼らはシニカルな笑いを浮かべ、「おいおい。こいつ、土臭いぞ。あの町は農民しかいないからな」と突き飛ばしてきた。それからぼくはずっといじめられっ子だった。 三つ目、これが一番ぼくが田舎を嫌っている理由になる。保守的な考えの人間が多いこと。 牛と小麦に囲まれ、一日何も変わらない生活を送ることが当たり前の田舎町は、先祖代々伝わっていた生き方を大切にする。農家の息子は農家になって、漁師の息子は漁師になって、パン屋の息子はパン屋として生きていく。突拍子もない将来の夢なんて抱くのは言語道断。それが当たり前の世界。テレビで見る都会はもはや異世界でしかない。農地に囲まれて孤立した町では、それ以外の生き方を教えてくれるひとなんて誰もいないんだ。 オメガも当然、オメガらしい生き方を求められる。つまりアルファと結婚して幸せな家庭を築いて次世代のアルファを産んで育てるっていう、石器時代のころと何も変わってなさそうな典型的な考え方。それがこの町では常識として語られていて、ぼくはその期待を町中の住民から一身に背負って生きてきた。 この町からアルファと結婚できる人が生まれたら、そりゃ大事(おおごと)だ。だって玉の輿と身分違いの恋が無条件に発生するのがアルファとオメガの恋愛だ。絵に描いたようなシンデレラストーリーになる。貧乏で憐れで容姿端麗なオメガがベータにいじめられているところを、アルファの王子様に救ってもらうというのは、映画や小説といった大衆娯楽ではお約束な展開になっていて、彼らは現実世界でアルファとオメガが幸せに生きてる姿なんて見たことないくせに、ぼくには創作されたおとぎ話の展開を期待していた。 年齢が十代後半になってから、町のじいちゃんやばあちゃんに「いつアルファと結婚するの?」と聞かれ続けた結果、ハイスクールを卒業する頃にはすっかり結婚という二文字が大嫌いになっていた。
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