ヒガンバナの祈り

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 新(あらた)は中学三年生。「地元をよく知ろう!」という特別授業で、地元の妖怪譚を調べて発表することになり、図書室で本を探していた。 「なんだそれ、続きはねーの?」  急に後ろから呼びかけられ振り返ると、潮(うしお)が肩の後ろから本を覗き込んでいる。 「ないみたいだよ」  新は頁をパラパラとめくる。 「……やっぱりないね」  ふーん、と潮は新から離れる。 「なんつーか、ビミョーにかわいそうだな、その話」 「友人になりたかっただけなのにね」  新はまたパラパラと続きを探す。 「あ、まだなにかあった」 「なにが?」  新の傍に屈んで他の本を物色しながら潮は言う。 「『現代の創作とみられるが』」  新は読み上げる。  翌年牛鬼の生贄に選ばれたのは、十五になる下級武士の娘であった。というのも、その年十五の男子はいなかったからである。  娘が山に分け入ると、そこには四肢のない鬼の顔をした妖怪の屍と、首のない少年の白骨化した遺体があった。二人の屍は寄り添うように伏していた。  娘はどうにか村に引き返し、ことの顛末を話す。娘を山へと送った僧侶二人は口をそろえて、ヒガンバナを供えるのだと言った。ヒガンバナを添えられた遺体は、来世で新しい命を授かるからと。 「ふうん」  潮は言った。 「それって効き目あったのかね?」 「さあ……効いているといいけれど。きっと効いたと、オレは思うよ」  お前は優しいからなあ、そう言って潮は新の頭をぽんと叩いた。 「やめろよ、お前はもう本探し終わったのか?」 「いや、まだ。つか、ガチで探すから先帰んないで! オレの宿題終わらせるまで帰んないで!」 「終わらせるの潮であって、オレじゃない」 「ひでぇ……!」  ひどくもなんともないよ、と新は悪戯っぽく微笑んだ。  新は、光り輝くような美しい男子であった。凛々しい眉にすっと伸びた鼻筋、抜けるように白い肌、黒目がちな瞳を囲む長い睫。ただ、生まれながらに、額に裂傷のような痣があった。新が黒の前髪をわざわざ長めにしているのは、その痣を会う人会う人に指摘されるのが面倒で、隠そうとしているからだ。  けれど、理由がわかった気がする、と新は思う。この痣の理由。潮は、今の話を聞いてなんと思ったろうか。オレが転校してきたとき真っ先に話しかけてくれて、友達になろうぜと明るく笑ったこの友人は。
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