きっと、君だけは愛せない

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きっと、君だけは愛せない

* 「いわゆるジューンブライドってやつですか。ああ、そうですか。よろしいこと。お幸せそうで何よりですね」 汗をかいたビールジョッキをテーブルにごつんと置き、憎い男に向かって私は毒づいた。 「あんたがまさかそんな安っぽい陳腐でありきたりな結婚をするとはね、思いも寄らなかったわ本当。堕ちたもんね!」 年季の入った居酒屋のジョッキは細かい傷が無数に入って、白く曇っている。 まるで今の私の気持ちみたい、なんて感傷的なことを考えて、なんだか笑えてきた。 次に怒りが込み上げてくる。感情に任せて、食べ終わった枝豆をわざと殻用の小皿には入れずに放り投げた。 「バカ! クズ! ゲス! よくも裏切ってくれたわね!」 「……お前なあ」 向かいに座った男は、散らばった枝豆の殻を一つひとつ拾っては小皿に集めている。 その無駄に整った顔に向かって、私は悪態をつきつづけた。 「私のこと、運命の女だって言ってたじゃない。お前ほど気の合う女はいないって、他の女じゃだめだって、代わりなんかいない、って……」 「ああ、まあ、そんなことも言ってたな」 「でしょ!? なのに、あっさり他の女に乗りかえて、とっとと結婚しちゃうなんて……。私は唯一無二の女じゃなかったの? あんたなんか最低よ! ゲスの極み!」 ぐびぐびっとジョッキをあおると、唇の端からビールが溢れて、首から胸元へと伝い、コバルトブルーのドレスを濡らした。 「おい。こら、ミキ。服が濡れてる」 目の前で呆れ顔をした男は、私の胸元を指さした。 「そんなの見りゃ分かるわよ」 「気を付けろよな。それブランド物だから高かったって自分で言ってたじゃないか」 そういって、おしぼりで私の顔と濡れた部分を拭いてくれる、黒い光沢のあるスーツに白いネクタイの男。 その顔を睨み付ける。 酔いのせいで目が据わっているのは自覚していた。
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