きっと、君だけは愛せない

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「……そうよ。ブランド物よ。五万もしたのよ」 「思い切ったなあ」 「馬鹿な女よね、私も。自分を裏切った男と他の女の結婚式に、一番高いドレス着ていくなんてさ。なに気合い入れちゃってんのよっていうか、未練がましいっていうか。もうほんと、最低……」 自分で言いながら妙に納得する。 そうだ、私はまだ未練があるのだ。 だからこんなにムカつくし悲しいし苦しいのだ。 「……もう! ほんとムカつく! 捨てた女を結婚式に招待するなんて、どういうつもりなのよ!」 怒りをぶつけると、目の前の男はおかしそうに笑った。 「分かった、分かった。ミキの気持ちは分かったよ。でもさあ」 ゆったりと優しげに細められた瞳が私を見つめている。 そして、柔らかい声が言った。 「それ、本人に言えよな。俺に怒ったってどうにもならないだろ?」 それもそうだね、と私は頷く。 そうだ。これは本人に、カズに言うべきことだ。 目の前で微笑みながら私の愚痴を聞いてくれているケイにぶつけるべき怒りじゃない。 「うん、ケイに言ったってしょうがないよね」 「素直でよろしい」 ケイはにっこりと笑っておもむろに両手をこちらに伸ばすと、私の頭をくしゃくしゃとかきまわした。 せっかく早起きして美容院に行ってスタイリストさんにセットしてもらった髪が崩れちゃうじゃないの。 と思ったけれど、もう披露宴も二次会も終わった後だから、今さらどうでもいいことに気づく。 そもそも、あんな最低男の結婚式のために、高いドレスを着て髪を綺麗にセットしてやる義理なんて、もとからなかったのだ。 「ごめんね、ケイに当たったりして」 ふうっとため息をついて言うと、ケイが「いや、それはいいんだけどさ」と微笑んだ。 「言いたいことあれば本人に言ったほうがすっきりするだろ」 「そりゃそうでしょうね」 「まあ、ミキのことだからあいつには何も言えないで飲み込むんだろうけど」 よく分かってらっしゃる。 さすが、いつも私の話を聞いてくれているだけのことはある。
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