きっと、君だけは愛せない

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そうだ。私はカズに面と向かって不満をぶつけることなんて、絶対にできない。 本人のいないところでなら、こうやって延々と愚痴ることはできるけど。 だから、恨みも怒りも悲しみも、飲み込むしかないのだ。 でも、ケイと話しているうちに、思いを吐き出せたからか、荒ぶっていた気持ちが落ち着いていくのを感じた。 「すみません、おかわり」 通りかかった店員にジョッキを渡すと、ケイは「まだ飲むのか」とあきれ返った。 ええ飲みますとも、と答えながら、私は今日の結婚式のことを思い返す。 いい式だった。 二人とも幸せそうで。新郎新婦の家族親族も心から彼らのことを祝福しているのが伝わってきた。 そして――カズの奥さんになった人。 私より五つも若くて、小柄で華奢で可愛らしくて。 好きな人のために何時間もかけて手のこんだオシャレ料理とか作っちゃいそうな、家庭的で女の子らしい感じだった。 いわゆる、普通の可愛い女の子、ってやつ。 彼女を見た瞬間、私はカズから結婚式の招待状が届いたときよりもずっと酷く打ちのめされたのだ。 結局カズもそういう女がいいわけね、と泣きたくなった。 「……ひどい話よね。私はカズが『普通の女はつまらない、家庭的な女なんて媚びてる感じがして嫌だ』って言うから、わざとらしく女らしさ見せたりきゃぴきゃぴ騒いだり手料理ふるまったり、そんなことするような陳腐な女にならないように気をつけてきたのに」 指先で箸置きをいじりながら言うと、ケイが呆れたように「ばーか」といった。 「そうやって相手に合わせてたからうまくいかなかったんだろ」 「それはわかるよ? 相手に合わせて無理したっていつか破綻することくらい理解できるよ? でもさあ、それでも好きな人に合わせたいとか思っちゃうのが恋する乙女なわけよ」 ケイは「ふうん」とあまり興味もなさそうに頷いた。 彼はいつもそうだ。 私が何を言っても平然と「ふうん」、「なるほどね」と適当に相づちを打つだけで。 それでもこうやって愚痴り酒に付き合ってくれるんだから、私としてはありがたいんだけど。 最近は学生時代からの女友達も仕事が忙しかったり、結婚したり出産したりで、なかなか会って話すことができなくなってしまった。
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