20光年ロボット

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 ロボットはこの星に数えられるほどしか存在しない。ロボットが言うには、沢山のロボットを乗せた何機かのロケットがこの星にやってきたけれど、そのうちの何体かは宇宙飛行の間に壊れてしまい、さらに残ったうちの何体かは着地までの衝撃で壊れてしまい、さらにそのうちの何体もが、この何十億年もの間にどんどんと壊れてしまったのだという。私たちは、運よく生き残った強いロボットたちを保護したいと思っている。だから彼らは星のあちこちで自由に、守られて過ごしている。もっとも、何十億年もの間この星の激しい環境の変化を耐え抜いてきたロボットたちは、本当は私たちの保護なんて要らないのかもしれないけど。  私がそんな数少ないロボットのうちの一体に出会ったのは小学生の頃だった。その頃、私のクラスでは『ロボットに出会ったらいいことがある』なんてジンクスが流行っていたので、最初、小川のそばに佇む、当時の私よりは少し上背のある二足歩行の影を見つけたとき、私は、明日学校で皆に自慢しよう、とか、そういった子供らしい、優越感や勝利感で満たされていた。ロボットは少し大きくて怖かったので、そのままその場を去ろうと思った。だけど、私の気配に気付いたロボットはゆっくり振り返ったのだった。 『こんにちは』  と、ロボットは言った。私の生まれ育った国の言葉と、仕草を、完璧にこなした。その声は柔らかくて、紳士的で、ゆったりした動きも優雅で、私は、なんだか急に恥ずかしくなった。テレビや教科書でしか知らなかったロボットは、こんなにも素敵な挨拶をするのだと、そのとき初めて知った。そんな礼儀正しいロボットに、私は声をかけることすらせず、明日友達に自慢することで頭がいっぱいだったのだ。 「こ、こんにちは」  少しだけドキドキしながら、私はロボットに挨拶を返した。ロボットは笑った。微笑んだのだと、私は直感で認識した。ロボットの格好は私たちとはだいぶん違う形をしていて、顔と思われる場所も、だいぶん違う造りをしている。丸い形の上の方に毛があって、目が二つと、その間の少し下の方に鼻、さらにその下に口があって、そこから声が漏れているみたいだ。あまり馴染みのない形だったけど、それでも、それは好意的な表情に思えた。実際、その後ロボットと交流していく中で、やはりそれは私たちの『微笑み』と同じ意味を持つ表情なのだと、ロボット自身が教えてくれた。
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