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言葉の見つからない私に代わってロボットが先に何かを言ってくれたことで、私は少し緊張が解けてほっとした。
『私たちは情報を蓄積します。この星の知的生命体の多くが、この赤色を「綺麗」「美しい」と感じるという情報を蓄積しています。それによって、あなた方の感性のパターンを解析します。私が知りたいのはより多くの人々の情報であって、あなたがこの魚に心惹かれていないとしても、わたしはそれを否定しないし、あなたの価値は損なわれない』
突然の言葉に、私は激しく胸が高鳴った。初対面のロボットに心を見透かされたのかと思って、驚いたし、少し怖かったし、恥ずかしかったし、ほんの少し嬉しかった。
父や母は、私にいつも女の子らしくしなさいと言った。でも私は、模範的な女の子のように振舞えなかった。振舞えないのは、一般的な、多数派の女の子のように感じられないからだった。時折それが苦痛だった。だから、赤い魚を綺麗だとすぐに感じられなかった自分に激しく失望していた。そんな気持ちを、何も言わないのに、ロボットは気付いて励ましてくれたのだろうか。
「あの、あの、……ありがとう」
思わずそう口にしたとき、ロボットは優しく微笑んでくれた。私はそれにすごくほっとして、心地よかった。嬉しかったし、ロボットのことが好きになった。だからなんだか、ロボットに出会ったなんて学校の友達には言えなくなってしまった。自分だけの特別にしておきたかったからだ。嬉しくて、特別で、胸が高鳴って舞い上がっていたから、どうしてあの時、言葉にもしなかった私の気持ちを、ロボットは気付いたのかしら、なんて疑問は、長い間抱くことがなかった。
ロボットはよくその小川のほとりに佇んでいるようになって、私は、学校が終わった後や、休日の母に家の手伝いを言いつけられなかった時間帯によく一人でロボットに会いに行った。ロボットはどちらかというと寡黙である気がした。それほど自分から話しかけてくることも多くなかったから、最初のうちは沈黙が訪れがちだったけれど、その静けさもなんだか妙に心地がよかった。そのうち私はロボットに興味の赴くままに色んなことを尋ねるようになった。ロボットは、たいていのことには親切にわかりやすく答えてくれた。
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