214人が本棚に入れています
本棚に追加
津田は、ゆっくりと俺から唇を離していった。津田の口から、濡れた俺自身が出てくる、っていうのが、いたたまれなかった。津田の不自然な口元に、俺はふらつく腰をどうにか倒さないようにしながら、準備室にある小さなシンクを指さす。
「早く吐いて来いよっ!」
でも津田は唇をきゅっと結んだまま、首を小さく左右に振った。
「気持ち悪いだろ? 早くぺってして、うがいして……」
俺は言葉を飲み込んだ。津田は口の中のものを、こともあろうに、ごくんとひと飲みにしたんだ。
「……津田、気持ち悪くないか?」
俺はおそるおそる聞いてみた。だって、嗅ぎ慣れた自分のそれのにおいは、どう考えても食欲をそそるものじゃないし。
「別に。深山君のだから、大丈夫」
口をあまり動かさないように言いながら、津田は小さく微笑んだ。
とんでもないことをしれっと言い放つ男は、一言でいえば、かなりな美形だった。
最初のコメントを投稿しよう!