序章

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「やだね~、勿体ぶっちゃってさ」  ふんっ、とマティアスは鼻で笑うと構えを変えた。  サーベルに力を送り込み、それをバルトに向かって解き放つ。 「行け!!」 「くっ、う……!」  マティアスの強大な力がバルトに襲い掛かった。  圧倒的な力の塊をバルトは受け止めきれず、闘技場の舞台から弾かれる。  舞台からバルトの姿が消えると、客席から大歓声が上がった。 「うおおおお! マティアスだ! マティアスが勝ったぞーー!」 「やはりマティアスの勝利だ!」 「マティアスだ! マティアス!」  闘技場を揺るがさんばかりの大歓声。  勝敗が決まった。勝利したのはマティアスである。  バルトの知恵を駆使した戦術は魔界でも類を見ないが、マティアスはそれを覆す力を持っていた。  それは、圧倒的な力、戦闘の勘、経験則、勝運、そして戦いにおける天賦の才である。  それは力が支配する魔界において最も必要で、最も尊ばれるものだった。  マティアスは片手で大歓声に応えると、舞台から弾き飛ばされたバルトを見下ろす。 「テメェとの戦いは相変わらずやり難いな。小賢しいったらないぜ」 「それはどうも。俺だって猛獣と戦ってる気分になるけどね」  敗者ながらも軽口を叩くバルトに、「食えねぇ奴だ」とマティアスは目を細めた。  そんな二人の間に落ち着いた男の声が割って入る。 「ご苦労だったな二人とも。良い戦いを見させてもらった」 「魔王」  二人に声を掛けたのは魔界の統治者である魔王だった。  老齢の魔王は装飾で飾られた豪奢な観覧席から二人の戦闘を見ていたのだ。  魔王の前でマティアスとバルトは恭しく跪く。すると歓声をあげていた客席の悪魔達も静まって魔王に跪いた。  そう、魔王こそ悪魔達の支配者である。  魔王は立ち上がり、闘技場の悪魔達をゆっくり見回した。 「皆、聞くがいい。魔界において最も尊ばれるのは力。マティアスとバルトの力は同等であったが、今この時、雌雄は決した」  闘技場に魔王の声が響く。  それを悪魔達は畏まった様子で聞き入り、固唾を呑んで続きを待つ。 「魔王の名において此処に宣言する。――次期魔王をマティアスとする!」  宣言されると、大気を揺るがす大歓声が上がった。  そう、闘技場で行なわれていた戦いは次期魔王を決定する為の戦いだった。
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