215人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
サシャは激情に駆られ、カーテンの向こうに突撃した。
カーテンの向こうには両腕に女悪魔を侍らせたマティアスが酒を飲んでいた。
酒の臭いと女悪魔達が纏う甘ったるい芳香が鼻をつく。
嫌な匂いだ。特に女悪魔達の匂いが嫌だ。
「マティアスの馬鹿! アホ!」
サシャはそう怒鳴りながらも、問答無用で女悪魔の間に割り込んだ。
「何よ、図々しいわね」
「ぅ……っ」
女悪魔の嫌味にサシャは唇を噛み締めたが、それでもマティアスの側から離れない。
マティアスの腕にぎゅっとしがみ付き、拗ねた顔を隠すように顔を埋めた。
「ちょっと何なのよ~」
女悪魔が苛立つが、「許してやれ」とマティアスが宥める。
マティアスは楽しそうにサシャの頭を撫でてくれた。
でも、きっとマティアスに他意はないのだ。
本当に楽しいから楽しそうな顔をしているのであって、そこにサシャへの特別な想いは含まれていない。
マティアスのサシャを気に入ったという言葉に嘘はないだろう。でも、それは間違いなくサシャの気持ちと一緒じゃない。
この埋め難い価値観の相違。意識の相違。
サシャはどうしようもない遣る瀬無さに泣いてしまいそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!