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序章
人類が誕生する前のいにしえの時代。地球には三つの世界があった。
一つは天上にある天界。ここは神によって統治され、天使と呼ばれる者達が住んでいる。
もう一つは地底にある魔界。ここは魔王によって統治され、悪魔と呼ばれる者達が住んでいる。
そして天界と魔界の間には地上界。ここは天界と魔界の中立世界である。
地上界に存在するのは植物や動物のみで、自由意志や自由思考を持つ生命体(人間)は誕生していなかった。
その為、地上界を間に挟みながら、世界は天使と悪魔によって二分されていた。
魔界。
薄闇に覆われた常夜の世界。
強者である事ではじめて存在が許される世界である。
魔界の中心には万魔殿と呼ばれる魔王の居城があり、そこには広大な円形闘技場がある。
今、石造りの円形闘技場から大きな歓声が響いていた。
数え切れない程の悪魔達が闘技場の客席を埋め尽くし、興奮したような怒号や歓声をあげて闘技場で戦っている二人の悪魔を観戦している。
一人はマティアス。赤い外套と漆黒の翼を翻し、サーベルを巧みに操って戦っていた。剣術は我流だが体術と組み合わせた戦い方は観戦者達を圧倒するものだ。
マティアスの紅玉のような赤い目が爛々と輝いて、端正な容貌のなかに雄々しい野性味を覗かせている。
そしてもう一人はバルト。飄々としながらも知的な雰囲気を纏う彼は、鋼の弓を巧みに放ってマティアスを翻弄していた。
「ちょこまかしやがって」
マティアスは舌打ちすると懐に隠していた短剣を投げた。
短剣は正確に額を狙ったが、バルトはそれを読んでいたかのようにひらりと避けるとマティアスの背後に回りこむ。
「悪いね、それが俺の戦い方なんだ、よっ!」
「ふんっ、性格が出てんじゃねぇか!」
マティアスはそう言いながら、背後から襲ってきたバルトの拳を受け止める。
二人の戦闘はそのまま接近戦に流れ込んだ。
バルトはマティアスのサーベルを弓で受けとめながら隙を窺い続けた。常に冷静であること。それが魔界一の頭脳と誉れ高い知恵者バルトの戦い方である。
だが。
「バルト、そろそろ終わりにしようぜ」
マティアスはそう言ってニヤリと笑った。
それは勝機という自信に満ち溢れた傲慢な笑みだ。
その笑みにバルトは「あらら~」と頬を引き攣らせる。
「もっと本気出しちゃう?」
「ああ。そろそろ見せてやるよ」
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