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第四章
サシャがマティアスの食事を用意するようになってから数日が経過した。
その頃には、マティアスが長期間城を不在にする事はほとんどなくなっていた。
毎日帰ってくる事も多くなり、サシャは帰城に合わせて食事を用意している。どうしても帰ってこれない時は、サシャが船の食料庫に長期保存できる料理を用意したくらいだ。
サシャは焼きたてのお菓子を部屋に運んできた。今やお菓子作りまで始めており、今もマティアスが出掛けている間に菓子作りをしていた。
「うん、焼き加減は完璧。火加減と時間に気を付けないとな」
テーブルに並べた焼き菓子からは甘く香ばしい匂いが漂っている。
お菓子作りを始めた頃は失敗ばかりだったが、ようやくマティアスに食べてもらえるまでになった。
「喜んでくれるかな~」
マティアスが食べている所を想像するだけで気分が浮かれてしまう。
サシャが食事の支度をするようになってから、マティアスが城にいる時間が増えた。
その事がサシャは純粋に嬉しい。だって、一緒にいられる時間が増えるからだ。
マティアスがサシャの作った料理を食べている時間、その時のマティアスだけは間違いなくサシャだけのマティアスなのだ。
「マティアス、早く帰ってこないかな」
サシャはまだかまだかと何度も時計を見てマティアスの帰宅を待っていた。
だがその時。
「う~ん、いい匂い。君が噂の子かな?」
不意に、聞き慣れない声がした。
その声に振り向くと、部屋の扉に凭れ掛かるようにして見知らぬ男が立っていた。
「だ、誰?」
いきなりの来訪者にサシャは警戒する。
「そんなに警戒しないでよ、俺は怪しい者じゃないよ~。怪しかったら次期魔王の城に入れないって」
確かに男の言う通りである。
男はとても軟派な印象の男だが、城内を自由に歩き回れるという事は魔界ではそれなりの身分という事だ。
「俺はバルト、宜しくね。マティアスの幼馴染みたいなもんだよ」
「マティアスの幼馴染……。それじゃあ、マティアスのお客様?」
「そういうこと」
バルトと名乗った男は陽気に言った。
幼馴染という事は、マティアスとは親しい関係の筈である。失礼があっては大変だ。
「こんにちは、初めまして。僕、サシャって言います」
サシャはそう自己紹介するとぺこりと頭を下げた。
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