第一章

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第一章

 地上界の青空の下、二人の天使が光を放つ純白の翼を広げて飛んでいた。  眼下に広がるのは何処までも続く緑の森と、色鮮やかな野花の絨毯だ。  色彩豊かな植物に覆われた地上は美しく、その光景を目にした金髪ふわふわ頭の天使はうっとりした表情になる。  吹き抜ける爽やかなそよ風に、天使が身に纏うローブがはためく。  名前はサシャ。少し甘えん坊で泣き虫なところがあるが好奇心旺盛な天使である。花の蜜を煮詰めたような甘い顔立ちと小柄な体付きは少年のそれだが一人前の天使だ。 「地上界は何度来ても飽きないね! レオもそう思うだろ?」 「はい! 地上界はまだ新しい世界ですから、端から端まで見て回りたいくらいです!」  レオと呼ばれた少年の天使も興奮気味に言うと、サシャは嬉しそうな笑顔になった。 「あ、あそこに降りようよ。花が一杯咲いてるよ」 「そうですね」  二人は森の外れにある小高い丘の上に降り立った。  二人は地面に降り立つと背中の翼を消した。純白の翼は天使の証であり身体の一部だが、天界以外の場所では目立ってしまうのだ。 「綺麗な場所だね。いろんな花が咲いてるし、森が近いからきっといろんな動物もいる筈だよ」  丘には色鮮やかな花々が咲いており、その光景にサシャは目を細めた。 「他の天使達も地上界に遊びに来ればいいのに」  勿体無いとサシャは言ったが、「仕方ないですよ」とレオは苦笑した。 「地上界は天界と魔界の中立世界ですからね。俺達が地上界に自由に出入りできるように、悪魔連中だって自由に出入りしてるんです。そんな場所にやって来ようなんて物好きな天使はなかなかいませんよ」 「物好きってなんだよ。レオは僕が物好きだっていうわけ?」 「そ、そんなつもりは……っ。俺はサシャさんを物好きだなんて思ったことないですよ!」  レオは焦った口調で訂正した。  そんなレオの様子にサシャはイタズラが成功した子供のような顔で笑う。 「冗談だよ、言ってみただけだって。それに、僕だって地上界が危険な所なのはちゃんと分かってるよ」  そう、天使といえど地上界は危険な場所である。  悪魔や地上界に生息する猛獣にいつ襲われても可笑しくないのだ。悪魔の中には天使狩りを好む者いるくらいである。でも、それでも。 「見てレオ、この花の蕾はピンク色だよ。後少しでピンクの花が咲くんだ。この花の名前ってなんだと思う?」
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