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第一章 美術品は血を吸うか
随分と場違いな場所に来てしまった、と私は思った。
辺りを見回して、身を縮める。銀の甲冑に豪奢な額の絵、紫色の箱に入った金色の冠、近くに並んでいる物だけでも王城に相応しい宝たちである。血と泥の中をくぐり抜けてきた私は、別の世界に入り込んだような心細さを覚えていた。こんなことになるなら素直に捕まらなければ良かった、と私は心の中で呟く。あの時どうにかして逃げていれば、少なくともこんな場所に押し込められることはなかっただろう。
私の周りには人間が何人かいたが、彼らの使う言葉は私の知らないものだ。私はぼんやりと壁の方を眺める。そこには花束を持った女の絵がかけられていた。女はどこか物憂げな様子で窓の外に目を向けている。小奇麗な枠を付けられているということはそれなりに価値のある絵画なのだろうが、と私は思う。どうもこういう物に価値を見出す思考は理解できない。もっと不思議なのは、私がそれと同列の扱いを受けているらしいということだった。
そんな私に最初に触れたのが彼だった。白い手袋越しに体温を感じながら、私は彼を見上げる。私に触れている彼の意識を奪い、暴れることは出来る。しかし――私は自分に触れる手の華奢さにうんざりとした。使い手とするにはあまりに釣り合わない。
私は魔力を帯びた剣である。自我を得たのがいつ頃だったのかはよく覚えていないが、私はいつでも戦うことに己の使命を感じていた。使い手の肉体を駆り、刃を振るう。それが私の役割であったはずなのだが、今は状況が何か少しおかしなことになってしまったらしい。
私が少し身を震わせたのを見て、私を取り囲んでいた何人かは怯えるように身を引いていたが、彼は気にする様子も見せず、ただ静かに私を見つめていた。
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