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朝起きるが、食事は用意されていない。
まあ、いつもの事だから、もう気にはならない。
父親はもう仕事に行っている。とてもじゃないけど、こんな家には居づらいんだろう。母親は起きてこず、無理矢理起こそうとすると暴力の矛先は僕へと向くのは、もう小学生の頃に経験している。
だから冷蔵庫から魚肉ソーセージを一本と牛乳を一杯で空腹をごまかす。
母親が喚き出す前に家を出る。登校途中に山本雅美と会う。
「おはよう」と挨拶を交わすと、彼女は自分の弁当を差し出す。
「あんまり量はないけど」
「ありがとう」
僕はいつもこうして雅美から弁当をもらう。
彼女は食べてもほとんど戻してしまうらしく、そのためかとても痩せており、背も低くて、とても同じ中学生とは思えない。
しばらく歩くと、友人の武田直哉と会う。
挨拶をするが、彼はとても眠そうにしていて、目も半分空いてないような状態だ。
「直哉、また寝不足?」
「まあね……いつも通り寝たりないよ」欠伸混じりにそう言う。
三人で登校する。
どうでもいい会話ばかりだが、それがほっとする。
僕の一日の中で、この時間が一番安心する。
一日のうちでわずか何十分かの時間だけが、誰にも何にも気を遣わなくて済む。
学校に着いて、授業が始まる。
空腹に耐えながら、授業を受ける。高校は遠くの学校がいい。寮か一人暮らしができるところ……あの家庭から抜け出せるチャンスだから。
チャイムが鳴る数分前、教室のドアが勢いよく開く。
目つきの悪いデブが入ってくる。
あいつの名前は飯塚俊也。みんなは陰で豚塚と呼んでいる。
豚塚の父親はこの町にある大きな工場を運営している。N町の多くの人が工場の世話になっている。雇用も、コンビニやスーパーの売り上げも工場に依存している。だから、豚塚の父親はこの町で巨大な影響力を持っているし、自動的に息子の豚塚も権力を持つようになる。
おまけに豚塚はいわゆる問題児で、いろんなところでトラブルを起こしている。警察に補導されたとか、ヤバい連中と付き合いがあるとか、そんな噂はよく聞く。
僕は、あいつが嫌いだ。
この町を嫌いな理由の一つが、この豚塚の存在だ。
ああ……もう、最悪だ。
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