君の心をどうか見せて

26/34
前へ
/228ページ
次へ
 アリアに柔らかな唇はなくなった。顔の皮膚も全て、固い鱗に覆われたのに、愛おしげにギャスパーは大きく割れた恋人の口元を愛撫した。人間の腕はもはやアリアの体を支えられるはずもない。しかし代わりに、ギャスパーの身長ほどの大きさの頭を、彼は両手で撫でて包み込む。 「あなたが好きです、アリア陛下」  目を閉じたまま、ギャスパーは言った。きっと、アリアがこの姿を見られることを恐れていると知って、彼は視界を閉じたのだ。 「たとえどんな姿でも、あなたのお心があなたである限り。俺はあなたを愛してる」  荒い息を吐く竜に、ギャスパーは頬を寄せる。大事な宝物を触れるようなそれの手は、その体温は、ゆっくりゆっくり、アリアの心を解いていく。 「ギャスパーは馬鹿だ」  慣れ親しんだアリアの声と比べると随分低いその声は、大地を揺るがす竜人のものだ。 「僕に、僕なんかに、ここまでするなんて」 「俺だって必死なんですよ」 「愛想をつかしても知らないよ」 「つかしませんよ、むしろしつこいくらい何度でも生まれ変わって、あなたを見つけ、追い続けるでしょうね」 「…目は開けないで。ごめんなさい、まだ勇気がない」  目を閉じたギャスパーは頷いて、アリアの足元を探った。見慣れた他の竜達の爪よりもずいぶん大きいそれをギャスパーは手の感触だけでゆっくりと撫で、恋人に体温を分け与えていく。 「あなたが見せたくないのなら、一生見せてくれなくてもいい。でも、一つだけ権利をくれませんか」 「権利?」     
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加