君の心をどうか見せて

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 彼に抱きしめられたことはたくさんあったが、アリアが恋人を抱きしめたことは初めてだった。わかってはいたけれど今までどれだけギャスパーに甘やかされて、両手に余るほどの愛情を受け取っていたのかを自覚して、アリアは困ってしまうようなくすぐったいような感情を止められない。申し訳ないとか、釣り合わないとか、そういった感情はどうやら少しは死んでいったらしい。それらにとどめを刺したのはアリアだ。けれど、そういざなってくれたのは間違い無く、半月かけてアリアに歩み寄り今夜一生懸命に語りかけてくれたギャスパーだ。 「…君が幸せなら、俺はもうなんでもいいんだ」  ギャスパーの主張はもはやぐちゃぐちゃに巡り巡ったが、残ったのはそれだけだ。きっと最初から、それに尽きたのだろう。 「そう言ってくれる人に初めて出会ったよ。幸せになるために、やってみたかったことをやってみようかな」  にっこり笑うアリアはギャスパーの髪に触れた。茶色の頭を?き回される感触に、驚いたギャスパーは彼の白い手を取った。 「まずはこれ。いつもギャスパーがしてくれるみたいに、僕もその髪を触りたかった」  冗談めかして言うアリアが綺麗だった。もう日付をまたいでしまっているだろうに、全然眠気などやってこない。今夜が永遠になればいいのに、と願ってしまうほど、鮮烈で美しい時間だった。 「次は…そうだな。国民に、ギャスパーのことちゃんとお披露目したい」 「そ、れは」  上目遣いで言ったアリアはほんの少しだけ緊張していた。彼はまだ、王城内にギャスパーのことを隠している。国民はまだ、紙面でしか婿入りしたギャスパーの存在を知らない。     
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