彼らは牙に気づかない

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 元老院の地下深く、厳重に鍵の掛けられた部屋で言ったのは水色の髪を持つ青年だ。彼は未だスカートを履き、政務官の制服を着たままである。 「失礼ながら、私はもう二時間ほどで王城に向かわなくては怪しまれます」  事務的なその響きには忠誠も愛着もなかったが、主人たるノクターンに青年は従う他ない。 「黙れグズ。お前は何で、あの王城の、アリアの変化を私に伝えなかった!?」 「申し訳、っ!」  ノクターンは寝台際で体を支える青年の頬を張った。青の髪が揺れる。しかし彼は、一言たりとも声を発さなかった。今のノクターンに何か言ったら最悪なことになると、彼は経験から知っていたからだ。家で待つ何も知らぬ弟たちのためだ、と、彼は唇を噛む。しかしその忍耐も、もう擦り切れたしまいそうだった。  ノクターンの体は、もう日光に耐えられない。  だから彼は自宅にも帰らず、こうして元老院の地下で寝起きする。王元会議も、アリアが口答えしないことをいいことに、決まって夜中を指定している。  月光を浴びることはあれど、日光など浴びたらノクターンは黒炭になって消えてしまう。アリアの鱗の調査を命じた竜らは、個体によって効果と副作用の出方が違うと言ったが、ノクターンは太陽と引き換えにこの体を得た。     
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