彼らは牙に気づかない

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 それからは泥沼だった。元老院側の、つまりノクターンの味方をする白竜排斥派の竜らと、王城の政務官らの言い合いは何時間にも及び、ノクターンにとって時間はただ無為に過ぎていった。  ノクターンはもちろん反論した。  我々がいなくなったら陛下はどうやって政治を行うのです、翼の無いあなたはもはや竜人とすら呼べないでしょうに、と、皮肉を込めて言ってやればアリアはいつものごとく黙り、死人のような表情でただ頷きサインをする人形に戻るのだろうと思ったのだ。  しかしアリアは、夜明け際にこう言った。 『今まで手伝ってくれてありがとう。これからは僕がやる』  そう言った彼は、今まで作りもしていなかった政策白書を机に放ったのだ。  予算決定権や貿易権の王城回帰はもとより、王都から地方に及ぶまでの福祉政策まで載ったそれは忌々しく、あのメッゾの息子カノンが必ず噛んでいると踏んだノクターンだが、向かいの椅子に着席する黒竜に何も追及ができなかった。  皮肉なことに、突如自分の意思で話し始めた白竜にそれだけで竜人族はおののき、その口は縫い合わされてしまったからだ。  ノクターンは例外だった。しかし彼の取り巻き三十人が緊張気味に黙ったとなれば、彼は長くその席に座り続けることは難しかった。     
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