彼らは牙に気づかない

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 このセリフを言うのは今夜が最後になりますように、と、力を持たない青竜は祈った。彼はただ、祈ることしかできなかったのだ。              ‥  国王アリアが元老院に苦言を呈したという速報は国を巡ったが、それに付随してドラコルシアを満たしたのはアリアへの賞賛だった。  法の遵守と、なあなあにしていた元老院の立場の明瞭化。それと、先王チルカのように国民のために命を尽くすと明言したアリア直筆の新聞記事は、喜びとともに国民に受け入れられることとなる。  それは、長い時を生き、ゆったりとした時間感覚に身を投じていた竜らですら皆、現状に違和感を持っていたことの証だった。  もはやアリアを、災厄の原始竜だと言って恐れる竜人族は少なかった。異質な白の鱗を目にしたら彼らの心臓はすくんでしまうだろうが、アリアが伝承に聞く、野蛮で血に飢えた太古の種そのものではないと、彼らはアリアの在位期間中に知ったのだ。 「主君はどうしておいでです」  パタンと、アリアの寝室のドアを閉めたギャスパーは、ひっそりと室外で身を潜めていたカノンと落ち合った。アリアは徹夜の王元会議を乗り越え、その後復権に沸く王城内で今後についての議論を政務官らと重ね、夕方になってようやく休みを手に入れたのだ。     
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