彼らは牙に気づかない

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 眠気まなこをこすってギャスパーに寄り添い、眠る直前まで慣れない政治の相談を持ちかけてきたアリアをなんとか寝かしつけたのがつい先ほど、そしてギャスパーは戦いを終えた恋人に布団をかけて部屋から出てきたばかり、というわけである。 「今ようやく寝ましたよ。随分疲れておいでだったけど、お心は元気です」  ギャスパーとカノンは同じくらいの背を並べて廊下を歩き出した。コツ、コツ、と斜陽の差す王城にゆっくりとした二人分の靴音が響き、通りかかった侍女はおもわず見惚れてしまう。 「主君はご立派だった。凛々しく頼もしく、横顔はチルカ先王陛下にそっくりで…。しかしギャスパー様、私はあなたにも敬意を表したい」  ギャスパー同様徹夜以降一睡もしていないカノンはそう零す。それに対し、ギャスパーは愛想笑いも浮かべず、カノンに言った。 「いえ、すべてアリア陛下のお力です。今回の戦いを決意されたのも、閣下含め政務官らと相談を重ねたのも、すべて陛下だ」  珍しく真顔で紡がれるギャスパーの言葉に、カノンはぎくりと体を強張らせた。  ギャスパーはドラコルシアに到着し一ヶ月ほどしか経っていない。彼はアリアの意向で国民に顔すら見せておらず、ずっと王城にこもりっぱなしである。  そのため、周りをよく観察するギャスパーは気がついたのだろう。一番近い臣下であるカノンすら、アリアを慕っていてなお彼を苦しめていた、ということに。     
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