彼らは牙に気づかない

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「…私じゃ、ダメでした。主君のお力にはなれなかった。情けない。主君はいつだってお優しい方だったのに、私はまだこの震えに勝てずにいる」  カノンの言葉に、ギャスパーはその恐怖の根の深さを知った。  獣は火を怖がるし、人類は暗闇を怖がる。人魚は渇きを恐れ、妖精は汚れた水が嫌いだ。それと全く同じく、竜人族は原始竜に、そしてそれを彷彿させる白竜に体の奥底から恐怖を抱くようにプログラムされているとわかってなお、恋人の置かれる立場、晒され続けてきた視線を痛感したギャスパーは、どこか納得のいかない気持ちを抑えられない。 「夜通しの会議でアリア陛下が言葉を発したのはほんの数分。他は全て、互いの陣営の竜達が言い争いをしましたね。けれど、陛下のお声が響いた瞬間、皆黙った。王城の政務官らもです。その目は怯えに満ち、まるでアリア陛下が犯罪者か暴君なのではないかと錯覚したほどです。…しかし陛下はそんな目に耐えて生きて、今日この日を迎えた。俺がしたことなど、手助けにも満たない。全て陛下の強さが成した業だ」     
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