彼らは牙に気づかない

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 ギャスパーはカノンの自責に何も言わず、ただそう言った。ノクターンの操り人形と化したアリアを気遣わなかった彼の臣下はいないだろう。しかし彼らはノクターンに手出しができなかった。よもやアリア本人を動かしてしまうなど、国民の誰しもが考えも及ばなかったことだろう。 「ま、俺がカノンさんに少しも怒らなかったと言ったら嘘になる。でも、俺みたいな異形がこの国に乱入しなくては、長きにわたり滞っていた空気を動かすことは難しかったのだろうと予想はつきます。人間など百年も生きないから、あなたがたの時間軸での政治の流れなどわかりませんしね」  ギャスパーはフォローするようにそう言ったが、アリア至上主義の彼が王城の竜らに感じる感情は単純ではないはずだ。  燃えるような西日が、吹きさらしの廊下を照らしていた。衛兵の竜が城の周りを護り飛んでいて、大きな影が横切っていく。 「もう主君から聞いておいででしょう。あなたをこのドラコルシアに呼んだことはただの賭けに近く、アリア陛下が王座に座ってくださるのならそれでよかった。あのノクターンに支配されるドラコルシアなどごめんだと思ったのでね。けれど我々は、新しい風にすがる以外に策を思いつかなかったのです。何のために他種族より長く生きてきたのでしょうね」  カノンは自嘲気味に笑う。     
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