彼らは牙に気づかない

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 側に仕えておきながら、どこかで自らの主君を諦めていたという事実にカノンは絶望に似た感情を抱きつつも、それでも彼はできることをやった。意欲を持ったアリアに賛同しほとんど眠らず、ノクターンへ対抗するための全ての準備に尽力したのだ。  しかしなお、真面目な若き宰相の胸を占めるのはギャスパーへの賞賛と、自らへの歯痒さである。 「気落ちされる必要はありませんよ。これから先の方が、アリア陛下を待ち受ける困難は大きいと俺は踏んでおります。だからこの先支えられればいい。とはいえ、俺はまだ陛下と正式に結婚すらしていない身。そのため宰相閣下のあなたにこんなことを言っていいのかとも思いますが」 「とんでもない。あなたさまには是非、長くアリア陛下の治世に関わっていただきたい。…ところで、もうここまで来ましたが」 「いませんね。不思議だな」  二人はピタッと足を止めた。ギャスパーとアリアの私室のためのフロアは、二人が立つこの水路にかかる橋を越えたらおしまいだ。  二人はただ雑談をして、仕事明けの互いを労わるために歩いていたわけではない。ある人物を探しているのだ。 「おかしいですね、これではアレグロはどのフロアにもいないことになる。帰ったわけではないでしょうに。アレグロにも、任せたい仕事があったのですが」     
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