彼らは皆戦場にいた

1/44
前へ
/228ページ
次へ

彼らは皆戦場にいた

「あ…ギャスパー」  窓際に立っていたアリアはシャッとカーテンを閉め、静かに入ってきたギャスパーに微笑みかけた。 「陛下、起きていたのですか?」  恋人は寝ているとばかり思っていたギャスパーだから、すっと窓際に立っていたアリアに驚いてそう言った。しかし数時間だけは寝られたはずのアリアなのに、その顔の疲労は濃い。むしろ、寝る前より青ざめている顔色にギャスパーは不信感を持ち、足早にアリアに近寄った。 「陛下、まさか何かありましたか?それか、悪い夢を見たとか」  ギャスパーの言葉にアリアがビクッと肩を震わせたのを、ギャスパーは見逃さない。カノンから預かった予算編成のための資料を彼はテーブルに放って、ずかずかと恋人に歩み寄る。アリアは素肌に、寝間着の長いカッターシャツを着ているのみだ。竜人族はやはり寒さに強いようで、彼は平気な顔をしている。 「いや、何も」 「本当ですか?俺の勘はそこそこいい方なのですが」 「知ってるよ。でも、本当に何もない」 「陛下、んむっ」  ぐいっとギャスパーの黒のシャツの襟元が下方に引っ張られた。そして重ねられた唇の性急さに、ギャスパーは驚いて目を見開く。     
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加