彼らは皆戦場にいた

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 アリアはあの星を見た夜以降、少しずつ積極的になってくれる。まだ一緒にベッドで夜を超えたことはないけれど、時たまキスを仕掛けてくる恋人がギャスパーは可愛くて仕方がなかった。しかし、今夜のキスは何か変だ。まるで何かを隠すような、ごまかすようなそれに、ギャスパーの脳内で警鐘が鳴る。  アリアは確かに、元から強かったその精神にもっと磨きがかかって凛々しくなった。けれどそのせいで、抱えなくてもいいものを抱えてしまわないかと、ギャスパーは優しくもある恋人のことを気にかけていたのだ。 「んっ、ちょ、アリア陛下!」  甘い唇から離れるには精神力が要ったが、ギャスパーはどうしてもアリアの様子が引っかかる。細い肩を掴んで彼をべりっと自分から剥がしたとき、ギャスパーはアリアの異変に気がついた。  彼の肩が震えていた。何かがあったとしか思えないそれに、ギャスパーはアリアに詰め寄る。 「王元会議が終わったとき、あなたは満足げなお顔をしていた。けれど何です、今はまるで」 「何でもない」 「俺が席を外していた数時間、あなたは本当に寝ていましたか?いや、確かに眠ったはずだ。そのあと起きたでしょう、それとも誰かに」  起こされたのですか、とギャスパーが言おうとしたとき、聞こえたのはアリアの、死んでしまいそうなほど悲痛な小さな叫びだった。 「僕を抱いて」 「っ、陛下!?」 「いいから、僕を抱いてって言ってるんだ!」  アリアの目には、堪えきれないほどの涙が浮いていた。     
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