彼らは皆戦場にいた

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 衝撃的な言葉とその様子に、ギャスパーの心臓が嫌な音を立てる。この感情が怒りなのか心配なのか、それとも、事情を説明しようとしないアリアへの苛立ちなのかはわからない。  立ち尽くすギャスパーの手を引いて、アリアは窓際から離れる。ものすごい力だった。見た目はとにかく細いのに、アリアはぼんやりしていたギャスパーの大きな体に抵抗を許さず、彼をベッドのほうに引っ張っていく。彼のその顔に一切の表情はなかった。  こんな状況で初恋の人の肌に触れるなど、ギャスパーは絶対に嫌だと思った。  アリアに感じる違和感。涙を浮かべる恋人。まるで今体を重ねなければ二度と機会はない、というかのように焦った彼の様子は、どうしてもギャスパーの心にストップをかける。  彼と初めての朝を迎えることを、ギャスパーはとても楽しみにしていた。しかしこんな夜は、ギャスパーの思い描いたその日から遠くかけ離れているのだ。 「陛下手を離してください」 「…」  アリアはギャスパーに返事をよこさず、彼をどさっとベッドに下ろす。ギャスパーが初めて背を預けた国王のためのそれは、キングサイズよりも大きくまるで雲の上にいるような感触で、剣技のための筋肉で重いギャスパーが倒れこんでも軋む音一つしなかった。     
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