彼らは皆戦場にいた

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 仰向けに転がされて、ギャスパーは焦って起き上がろうとした。しかしそれは叶わない。アリアの薄桃色の指先に肩を押されて、彼はいとも簡単に、その体の自由を失ったからだ。  それは、アリアの力が強かったからではない。カーテンの隙間から漏れる新月の夜の薄い光を背負ったアリアの姿がぞっとするほどに綺麗で、ギャスパーは目を背けられなくなったのだ。 「陛下」 「…」 「陛下!」  アリアは返事をよこさない。彼は膝をついてベッドに乗り込んだ。ゴブラン織りの天蓋が揺れる。房飾りがシーツに影を作った。  アリアはギャスパーの腰を両膝で跨ぎ、じっと恋人を見下ろす。依然泣きそうな目をしているくせに口を真一文字に結んだ彼の頑なさがギャスパーは嫌だった。しかし彼が本当に嫌だと思ったものは、プチプチと不器用に自らのカッターシャツのボタンを外すアリアの姿に興奮する自分自身だった。 「陛下、やめてください」 「いやだ」 「やめるんだ」 「嫌だ!」 「アリア!」  初めてそう名前を呼んでしまって、ギャスパーはハッと自分の口をふさぐ。それに動揺したのは、アリアも同じだ。しかしギャスパーの予想に反して、アリアは笑った。心底嬉しそうに笑いながら、彼はこう言ったのだ。 「僕ね、ギャスパーに呼び捨てしてもらうの、夢だったんだ」     
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