彼らは皆戦場にいた

5/44
前へ
/228ページ
次へ
 ささやかすぎるそれに、ギャスパーはなぜだか目頭が熱くなる。なぜアリアがこんなに急ぐのかわからない。絶対に彼は何かを隠している。しかし、甘く暖かく嬉しそうに、そして少しの寂しさを混ぜたように笑う彼に胸を刺されて、ギャスパーの理性の緒はブチっと音を立てて切れてしまった。 「望むなら、何度でもそう呼んでやる」  静かな低い声だった。  指がガクガクと揺れてしまってボタンすら外すのが難しそうだったアリアは、ずいぶん積極的なくせに凄まじく緊張している。彼はきっとこういった経験をしたことがないのだろう。けれど必死にギャスパーを誘った。意味も理由もわからないけれど、初体験の恐怖を押しこめて行動を起こしたアリアにギャスパーが感じるのは、怒りと焦りと、そして身が切れるような愛おしさだ。  ギャスパーは体を起こした。そしてアリアに抵抗をする間も与えないまま、くるっと体をひねって彼を押し倒す。 「お望みなら、今夜は全部呼び捨てにしましょうか」  初めて聞く獰猛さを隠しきれない恋人の声にアリアが感じたのは恐怖だけではない。全身に散らばった鱗も、胴体に巻きつくようにある鱗も、ぞわりと浮き立ち肌を引っ張る。 「アリア。君が悪い」 「わ、わかって、」 「けれど俺も同じくらい悪い。あなたを前にして、我慢がきかなくなるなんて」  悔しそうに悲しそうに言うギャスパーを見て、罪悪感でついに涙を溢れさせてしまったのはアリアだ。相手に行為を強制するこんな誘い方なんて、まるで強姦と同じだとアリアは泣く。     
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加