彼らは皆戦場にいた

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 どうしても今夜ではなくてはならないとアリアは思った。決してギャスパーにだけは知らせてはならない理由を胸に抱えて、アリアはその体のすべてを賭けて、この夜を望んだ。  しかし、その涙をそっと拭ったのはギャスパーだった。 「悲しいのですか?それとも、怖いのですか。…やめましょうか」  そういったギャスパーは、いつもの彼の顔に戻りつつある。しかし無理に微笑もうとする彼がどれだけ我慢しているか、アリアは気がつかないはずもない。  こんな風に身勝手に彼を誘ったのはアリアなのに、優しい恋人はこうまでもアリアを気遣う。そんな彼に、アリアはほんの少しだけあった迷いと、この夜を超えた先に見える未来への恐怖を脱ぎ去った。  誘ったのはアリアだ。抵抗していたギャスパーの弱みをわかって、下品に彼を惑わせたのだと、アリアは腹をくくった。本当に、今夜が最後になるのかもしれない。そんな悲痛な覚悟はもしかしたら見破られてしまうかもしれないが、ギャスパーに決してやめて欲しくはなかった。 「やめないで。…愛してる、本当だ」  アリアは笑った。  その笑みを見たギャスパーは、悪い予感に背中が震える。  まるで新月の闇に吸い取られて、アリアが夜に溶けて消えてしまうような、そんな予感がしたのだ。     
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