彼らは皆戦場にいた

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 まだ服を脱いでいなかったことをギャスパーは後悔した。薄い布一枚隔てた先の体温が遠くて、彼はその距離を少しでも埋めようと、さらに腕に力を込める。 「綺麗だ」 「で、でも、」 「でもじゃない。…綺麗だよ、すべての生き物で一番、君が。アリア」  耳元で囁いて、脳に直接流し込むような低い声は、アリアの心を少しでも落ち着けられるのだろうか。彼の救いになるのだろうか。幼い頃からその見た目のせいで人生が狂っていったアリアだったから、彼はとにかく、自分の体が嫌いだった。 「綺麗だ。綺麗で可愛くて、妖艶で、清純で、なんて言葉を使ったら足りるのかわからないほど」  ギャスパーの言葉は止まらない。素直に正直に感じたことを伝えるうち、どうしても硬くなる股間がスラックスの中できつくて仕方がなかったが、致し方ない。こんな風にアリアを抱きしめる想像を何度したのか、ギャスパーはもう忘れてしまったほどなのだ。紳士ぶって恋人の前に立っている毎日だったけれど、いい子の仮面をかぶったギャスパーだって二十二歳の男だ。 「ば、馬鹿、当たって、」 「ごめんなさい。許して」  少し照れてしまってギャスパーがアリアの額にキスをした頃には、アリアの混乱は落ち着いていた。二人で向き合ってくすくすと笑った。お互いの目に映る恋人の真っ赤な頬が可愛らしかった。 「アリア」     
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