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もう何度見たのかわからない、とろけるような笑みを向けられてて、アリアはほうっと息を吐く。心配性な恋人に、ギャスパーは何か声をかけてあげたくて口を開いたが、彼が漏らしたのは大きなあくびだ。
「ふ…ああ…ごめん。何でだろう、眠くて…」
「そりゃそうだよ。王元会議の前も睡眠不足だったし、僕はさっき寝たけどギャスパーは徹夜したままずっと起きてるじゃない」
アリアがくすっと笑ってギャスパーの背に手を回したところで、ギャスパーのすっかり重くなった瞼はついに完全に降りてしまった。とてつもなく眠かった。夜通しの会議を乗り越えその後もひたすら夕方まで仕事をし、その後この寝室を訪ねたのだから、ギャスパーは限界が来てもなんらおかしくないのだ。
「おやすみ、ギャスパー」
アリアのそのセリフに、安堵と慈しみともう一つ、色濃い寂しさがあった気がしたのは、きっとギャスパーの気のせいではない。しかし彼は、腕の中にしっかりと恋人を閉じ込めたことに安心して、襲いくる睡魔に身を任せてしまった。
何かを忘れているような気がした。けれど、体力はもう一ミリも残っていなくて、ギャスパーは夢の中に落ちていく。
最後に伝えたかった、愛してる、の言葉は音にはなれずに、ギャスパーの喉元にとどまって消えた。
‥
彼の意識が浮上してきたのは、腕の中が寒々しくて不安を覚えたからだった。
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