彼らは皆戦場にいた

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 ギャスパーは直感に従って、アリアのクロゼットを開いた。その中に、シワシワになってしまった寝間着の長いカッターシャツを見つけた。けれど、アリアのいつも着ている、黒のトップスに細身のスラックスが見当たらない。さらに不可解なことに、彼の靴もなくなっていた。 「嘘だろ、どこに行ったんだ」  ギャスパーはまた無意識に顎に手を当てて、止まらない冷や汗を流しながら部屋をうろつく。そして彼は、ようやく思い出した。昨夜のアリアの様子は、確実に変だったのだ。  部屋に入るなり、寝たとは思えないほど思いつめた顔でアリアはギャスパーに迫った。抱いて、なんて直接的な言葉を好むような恋人ではないのに、彼は必死ともとれる態度で、ギャスパーを誘ったのだ。  最悪なのは、ギャスパーは違和感に気付きつつもそれに流され、すっかり忘れて寝こけていた事実である。 「アリアはなんであんな態度をとったんだ…?くそっ、どこにいる!」  滅多に物に当たらないギャスパーは、自分へのイライラと不安でダンッと壁を殴る。  アリアは元老院に牙をむいたばかりだ。彼らは過激な思想を持っていて、アリアを殺せと千年間訴えてきた集団だ。そんな竜たちにアリアが対抗し戦いを始めたばかりだというのに、アリアがこんな時間に一人で消えたことが不安で仕方がない。襲われたら最後、思いつめて消えてしまったその力が戻らなければ、アリアは彼らの毒牙に貫かれて死んでしまう。     
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