彼らは皆戦場にいた

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 しかし次第に、女に扮し正体を隠し、王城政務官登用試験を乗り越え、毎日城で働きながら孤独なアリアを見るうちに、彼は自分の仕事に嫌気がさすようになる。金竜ノクターンの異常性と、怖いからという理由だけでアリアを排除しようとする元老院の竜らの性根に嫌悪感を抱いた彼は、それでも必死に仕事に徹して暮らしていた。  しかし、彼は大きな葛藤を抱えることになる。ともに働く上司に恋をしてしまうとは、アレグロは全く予想もしていなかったのだ。  年上の男など、アレグロにとって最も恐ろしい生き物だった。しかしカノンは違った。優しく有能で的確で、たまにお茶目で、誇り高い忠誠心を持つ美しい黒竜に、アレグロは次第に心を奪われていった。  恋を知ったことが、彼を狂わせたのかもしれない。  もし恋など知らなかったなら、アレグロは決して、自分の飼い主に背くなどということをしなかった。 「アレグロ第一政務官。宰相閣下とギャスパー様がお見えです」  そう言ったのは、王の勅命通りに秘密裏にアレグロを捕らえ、地下牢に彼をつないだ、一人の若い衛兵だった。彼はいまだ、日々張り切って働いていた美しい女性が間者だったとは信じられないでいるから、アレグロに心配げな眼差しを向けた。  想い人と、大事な主君の婚約者が地下に来たと聞いて、アレグロは鉄格子の先で顔を上げられない。  ピチョン、と水滴が石畳の廊下に落ちる音に紛れ、二人の男の靴音が止まった。大きな青い竜の前に、燭台を持ったカノンと、帯剣したギャスパーが立っていた。 「…アレグロ」     
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