彼らは皆戦場にいた

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 そう言ったのはカノンだ。思いがけず優しい声に、アレグロは胸が痛む。 「アレグロ、一から説明してくれませんか。この兵士の彼が、私にあなたが捕えられていると伝えてくれた時、私はどうしてもあなたの自白を信じられなかった。確かにあなたの言う通り、主君の庭のガラスは割れていたから、あなたは主君に会ったのかもしれない。しかし、あなたがノクターンの手のものだという話と、侵入したという話だけではどうにもつながりません」  カノンは鉄格子の間に腕を差し入れた。棘が付いているそれだから、カノンの手のひらが切れてしまって血が出るが、彼はそれを気にしない。  カノンは信じているのだ。何年も何百年も共に働いてきたアレグロのことを。その気持ちをより強固なものにしたくて、彼はアレグロの青い鱗を撫でて、こう続けた。 「私は知っています。あなたの魂は常に王城にあった。だから怖がらないで。いつものように、私に相談してごらんなさい」  柔らかく笑うその声に滲んでいたものがただの部下への愛情だけではないと、ギャスパーは気がついたが何も言えない。恋人が消えた今、裏切り者だったかもしれないアレグロを前にして、カノンのように落ち着いて話せる自信がないからだ。     
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